本専攻の生物多様性研究室の柴政幸君（博士課程2年）、丸井裕暉君（修士課程2年）、佐藤遼輔君（修士課程2年）が第87回日本植物学会（北海道大学）にて発表しました。
キク科ツワブキの葉身と葉柄に関する風荷重に対する影響
演者：柴政幸（生物多様性研：博士課程2年）、水野九十九、福田達哉
要旨：キク科植物のツワブキは日本の海岸地域を中心に生育している．海岸地域に生息する植物は海水の影響による生理的ストレスや強風といった機械的ストレスを受け，特に強風の影響を受ける場所では，そのストレスを回避する為に葉身を縮小化させることが報告されているものの葉柄の変化に関しては不明である．そこで本研究では，ツワブキの葉身および葉柄に関して形態学的および力学的データと生育地付近におけるアメダスの風速データを用いて，ツワブキの強風に対する回避戦略を明らかにすることを目的として研究を行った．
本研究では関東地方の平均風速が異なる3集団に関して，内陸に植栽されている1集団を対照集団として解析を行った．その結果，葉柄の断面二次モーメントと曲げ強度は集団間で有意な差は認められず，風速との関係は示すことができなかった．しかし，葉身面積と葉柄長は風速が高い地域ほど有意に小さくしていることが示され，また，葉身面積と葉柄の単位断面積あたりの長さが風速データに対して高い相関を示した．このことはツワブキは高い風速値を示す地域において葉柄の太さを変化させずに，葉身面積と葉柄長を減少させ，風によって作用するモーメントを低下させることで回避していることが示された。
海砂によるハマボッス種子表面への物理的損傷が発芽や海流散布能力に与える影響
演者：丸井裕暉（生物多様性研：修士課程2年）、柴政幸、福田達哉
要旨：サクラソウ科植物のハマボッスは海岸沿いに広く分布しており、演者らはこれまでにハマボッスの種子が、耐塩性を持つことや発芽に適した土壌の粒度に加え最適播種深度を明らかにしてきた。そこで本研究では広範囲分布を持つハマボッスの海流散布能力に着目し、浮遊能力及びその後の発芽能力を明らかにすることを目的とし研究を行った。本研究はハマボッスの種子を千葉県から採集し、3.45%のNaCl濃度で設定した疑似海水にて浮遊能力テストを実施した。またハマボッスの種子が個体から落下後、海へ侵入するまでの間に海砂によって種皮が傷つくことが想定されるために、振盪機に種子と海砂を入れ振動経過日数とともに浮遊能力と発芽能力を解析し、さらにSEMを用いて種皮を観察した。これらと並行して、砂上の種子乾燥が予想されるために乾燥剤を用いて乾燥種子の浮遊能力及び発芽能力を解析した。
解析の結果、振盪機種子は無処理に比べて浮遊能力が有意に増加したが飛砂による種皮の傷はほぼ確認できなかった。また乾燥種子も同様の結果を得た。しかし浮遊後の発芽率は、振盪機種子と乾燥種子ともに無処理と比べて有意差が認められなかった。これらのことから飛砂による物理的な衝撃はハマボッスの種子に影響を及ぼしておらず、海砂に種子が落下後、降雨の影響を受けず海流に乗る場合、砂上の期間が長いほどハマボッスの種子は乾燥による軽量化のために長距離散布が可能になることが示唆された。
ハマエノコロの環境適応形質の解明
演者：佐藤遼輔（生物多様性研：修士課程2年）、柴政幸、福田達哉
要旨：植物は、環境に適応するために形態的な変化を伴うことが知られている。イネ科エノコログサ属のハマエノコロは、一般的に広く見られるエノコログサが海岸地において草丈を低くすることで適応した変種である。そこで本研究では、ハマエノコロとエノコログサの稈に関して形態学的および力学的比較を行い、ハマエノコロの海岸地への適応様式を明らかにすることを目的として行った。
本研究では、ハマエノコロとエノコログサを野外から採集し、それぞれ30個体に関して形態学的および力学的解析を行った結果、ハマエノコロの小型化は、節数を維持しながら節間のみの短縮により小型化していることが示された。また両種に稈の太さに対する節間強度の違いが認められず、ハマエノコロが地上付近の節間のみエノコログサよりも有意に細くしていたことから、ハマエノコロは地上付近の細い節間により植物体の振動を可能にし、海岸地の強風に対して耐性を得ることができたと考えられる。また節間の断面積と荷重に相関が見られた結果は、茎を細くすることにより強度が低下することを示しており、ハマエノコロはエノコログサよりも小型化しているものの相対的に稈の太さは維持しているために、ハマエノコロは個体長に対する稈の強度を保持していると考えられ、強風によりハマエノコロが地上付近から曲がった場合でも、稈は途中で湾曲しないために、穂の地面への付着が回避されると考えられる。
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