本専攻の原駿輔君(生物多様性研:修士課程1年)によるオオバヤシャゼンマイが河川の水流ストレスに対応した葉形態や葉柄柔軟性を示すことを明らかにした論文がFrontiers in Plant Scienceに掲載されました。
概要
大雨や台風といった豪雨による突発的な増水は、河川沿いに生育する植物にとってのストレスとなり、そのストレスを低減させる狭葉化した植物がそのような場所を占めることがある。このような植物は渓流沿い植物と呼ばれ、これまでシダ植物のヤシャゼンマイが水流ストレスによる折損のリスク回避のために、狭葉化の他に葉柄の柔軟性を獲得していることが示されていた。河川の湾曲部において浸食作用を受ける外側を外岸、寄州側を内岸とすると、大雨などの急激な洪水時に内岸と外岸で水流差が生じ、河川沿いに生育する植物は異なる水流ストレスを受けることが想定される。オオバヤシャゼンマイは陸上種のゼンマイと渓流種のヤシャゼンマイの交雑種であり、幅広い形態を示すことが知られているために、様々な水流ストレスに適応することが示唆されていた。そこで河川沿いのオオバヤシャゼンマイの内岸集団と外岸集団の比較を行った結果、両集団は形態的に両親種の中間的な値を示した。しかし葉柄の解剖学的および力学的解析の結果、中間的な値を示さなかった。また単位体積あたりの細胞壁量に関して、内岸集団は外岸集団より有意に高く、さらに解剖学的解析の結果、厚壁組織の細胞壁密度において内岸集団は親種や外岸集団より有意に高いことが示された。一般的に細胞壁は力学的に植物体の支持を担うため、内岸集団は単位体積あたりの細胞壁量を多くすることで葉柄の強度を高めており、外岸集団は厚壁細胞の細胞壁を薄くすることで葉柄の柔軟性を獲得し、水流ストレスの回避に繋がったことが示された。本研究の結果は、オオバヤシャゼンマイが形態学的解析だけでは判断できない解剖学的および力学的変化を用いて異なる水流ストレスに適応することを示した。
尚、本研究は科学研究費助成事業基盤研究(C)および特別研究員奨励費の支援の下、実施されました。
Shunsuke Hara, Masayuki Shiba , Tatsuya Fukuda (2025)
Water-flow stress differentially affects the morphological, anatomical, and mechanical traits of Osmunda x intermedia (Osmundaceae) populations growing inside and outside the river curve.
Frontiers in Plant Science 16: 1651616.
DOI: 10.3389/fpls.2025.1651616