本専攻の矢島衣織さん(生物多様性研:修士課程1年)によるツリガネニンジンが河川の水流ストレスに対応した形態が遺伝的に固定していたことを明らかにした論文がEcology and Evolutionに掲載されました。
概要
植物は様々な環境に対して形態を変化させることにより生育を可能にしていると考えられる。キキョウ科植物のツリガネニンジンの葉は多様な形態を示し、そのことが様々な環境へ侵入・定着を可能にしていることが報告されている。特に河川沿いに生育する渓流集団は、大雨や台風といった豪雨による突発的な増水がストレスとなり、そのストレスを低減させるために狭葉化を獲得して生育していることが報告されている。しかし、この狭葉化が表現型可塑性による順応なのか、それとも遺伝的固定による適応なのかといった疑問が生じる。またツリガネニンジンは一年目に根出葉を形成するが、この葉に関しての狭葉化の有無は不明のままである。そこで本研究では、対照集団を含めた栽培実験により,ツリガネニンジンの形態に関する遺伝的変化の有無を明らかにすることを目的として実験を行った結果、両葉とも渓流集団の葉形指数が対照集団よりも有意に大きく、狭葉化の遺伝的固定が示された。また渓流集団の茎および根出葉の葉柄が対照集団と比べて太く、かつ短くなっていることが示された。これらの結果は、ツリガネニンジンの渓流集団が草丈を制限し、太い基部で曲がりにくくなるように変化していることを示しているため、これまでに示されてきた水流ストレス低減のための葉柄柔軟性とは異なり、水流ストレスに対して耐性を示唆する形態を遺伝的に保有していることが示された。
尚、本研究は科学研究費助成事業基盤研究(C)および特別研究員奨励費の支援の下、実施されました。
Iori Yajima, Masayuki Shiba, Kyohei Ohga, Yoshimasa Kumekawa,Tatsuya Fukuda (2025) Is genetic differentiation involved in the morphological adaptation of Adenophora triphylla var. japonica (Campanulaceae) to water flow stress along rivers?. Ecology and Evolution 15: e72222.
DOI: http://dx.doi.org/10.1002/ece3.72222