日本学術振興会特別研究員PDの柴政幸君(生物多様性研)が受賞した日本植物学会若手奨励賞の授賞式と受賞講演会が行われました。
受賞題目:野外における植物の機械的ストレスに対する適応様式の解明
講演要旨:
植物は常に成長や生存に影響を及ぼすさまざまなストレス下に置かれており,それに対して,光合成器官である葉の形態を多様に変化させて適応していることが明らかとなっている.しかし,葉を葉身と葉柄に区別して考えた場合,これまでは葉身の研究が中心であり,形態学的特徴に乏しい葉柄の研究は進んでいなかった.そこで私は葉柄に着目し,植物の機械的ストレスに対する適応様式として,形態学的・解剖学的・力学的解析に基づく環境適応の研究を行ってきた.
機械的ストレスのうち,風ストレスに関しては,野外における詳細な風速値と植物の形態変化との関係を明らかにするため,各アメダス設置点付近に生育するツワブキ集団の調査を行った.その結果,風速値が高い地点の集団では,葉面積および葉柄長が縮小する傾向が示された.また,これらの集団の葉柄について力学的解析を行った結果,材料が破壊に至るまでの材質的特性である曲げ強度に有意な違いは認められなかった.さらに,花茎は構造的差異により葉柄よりも有意に高い曲げ弾性率と曲げ剛性を示すものの,高風速地域では葉柄と同程度に花茎を短縮することで風荷重を軽減していることが示された.一方,水流ストレスに関しては,渓流沿いに生育し栄養葉と胞子葉の二形性を示すヤシャゼンマイを用い,葉柄の力学的特性の解析を,対照種であるゼンマイとの比較から行った.その結果,ヤシャゼンマイの栄養葉の葉柄は,材質的特性として破断ひずみが有意に高いことが示された.また,厚壁細胞はヤシャゼンマイの方が有意に短いことが示され,葉柄組織の縦配置において単位長さあたりの細胞間可動部位が増加することによって,葉柄全体が柔軟に曲がるという葉柄柔軟性に関する仮説を立てた.さらに,ヤシャゼンマイは有意に葉柄が短く,このことが葉全体の曲げモーメントの低減に寄与していることが明らかとなった.しかし,胞子葉の葉柄に関しては,栄養葉と同様に柔軟性が示されているものの,地上部の成長期間の短さにより細胞壁が十分に発達せず,細胞間可動部位の増加に加えて,胞子葉では細胞自体の変形が柔軟性に寄与していることが示唆された
これらの研究から,植物に対する流体起因の機械的ストレスへの適応は,風ストレスでは表現型の可塑性によって風荷重を低減しているのに対し,水流ストレスではそれに加えて材質的な変化を伴うことでストレスを低減していることが示された.

