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生物多様性研の学生が第89回日本植物学会で発表しました

生物多様性研究室の柴政幸君 (日本学術振興会特別研究員) 、原田栞里さん(博士課程1年)、黒須愁治君(修士課程2年)、黒滝魁斗君(修士課程2年)、原駿輔君(修士課程1年)、矢島衣織さん(修士課程1年)が、第89回日本植物学会(九州大学)にて発表しました。

ノコンギクの河川沿い集団に関する機能形態学的研究
演者:柴政幸,石原裕己,黒須愁治,黒滝魁斗,福田達哉
要旨:河川沿いに生育する植物は,突発的な洪水による水流ストレスを低減させるため,葉身の狭葉化や葉柄の柔軟化を示すことが報告されている.しかし,地上部で受ける水流ストレスは葉以外の器官にも影響する可能性がある.ノコンギクは荒地から河川沿いまで広く分布し,特に河川沿い集団は台風などによる増水時に水流ストレスを受けると考えられる.そこで本研究では,ノコンギクの河川沿い集団の茎における機械的および構造的特性を解析し,通常集団との比較から河川沿い環境における茎の適応形質を明らかにすることを目的とした.力学的解析の結果,茎の材質的特性において,河川沿い集団と通常集団の間で曲げ強度に有意差は認められなかったものの,河川沿い集団では有意に曲げ弾性率が低く,最大ひずみが大きいことが示された.これにより,河川沿い集団の茎は変形しやすく,柔軟に大きく曲がることが示唆された.また,解剖学的解析の結果,河川沿い集団の茎の横断面における組織比率は,通常集団に比べて皮層面積率が有意に高く,柔組織面積率は有意に低かった.さらに,維管束組織の細胞形態は,河川沿い集団で大きなルーメン径と薄い細胞壁を示した.これらの結果は,河川沿い集団の茎が,柔組織よりも細胞壁が厚い皮層組織の面積を拡大し,維管束組織の細胞壁を薄くなることで,受ける荷重を同程度に保ちながら,柔軟性の高い茎を形成していることを示していると考えられる.

蛇紋岩地におけるアンモニア菌の形態的適応様式の解明
演者:原田栞里,深山寛人,柴政幸,鈴木彰,福田達哉
要旨:アンモニア菌は土壌への尿素施与後にpHやアンモニア態窒素濃度が高い時期から発生する化学生態菌群であり,主に酸性土壌において尿素施与後の発生菌種や土壌理化学条件に関する研究が行われてきた.一方で蛇紋岩地は塩基性であり, さらに保水性が低く,一般的な植物の生育が阻害されるため, 特徴的な植生が形成されることが知られており,蛇紋岩地におけるアンモニア菌相や子実体形態に関する解析は興味深い. そこで本研究は,千葉県と静岡県の蛇紋岩地と非蛇紋岩地に尿素施与区(800 g/m2)を設け,アンモニア菌相と子実体形態の比較調査を行った. その結果, 腐生性のイバリシメジ(Sagaranella tylicolor) と菌根性のアシナガヌメリ(Hebeloma danicum)は両地点で発生した優占種であり蛇紋岩地において有意に小さい傘と短い柄といった形態変化を示した. このうちイバリシメジの子実体の全長は, LF層の厚さと類似した値を示し,形態変化の要因がLF層の厚さであることが示唆された. そこで本研究では, 静岡県浜松市の蛇紋岩地と非蛇紋岩地にそれぞれLF 層の厚さを人為的に調整した尿素施与区(800 g/m2)を設け,発生したイバリシメジの子実体の形態解析を行った. 本発表では異なる厚さのLF層から発生した本種の形態学的特徴を比較・検討し,子実体の形態変化の要因解析を試みた.

渓流沿い植物キシツツジの支持器官における力学的研究
演者:黒滝魁斗,柴政幸,原田栞里,伊澤颯翔,黒須愁治,原駿輔,矢島衣織,福田達哉
要旨:集中豪雨や台風がもたらす多雨による河川の増水は,河川沿いの植物に水流ストレスを与え,この環境に生育する草本植物は,柔軟な支持器官を持つことが報告されている.しかし木本植物の場合,強固に形成される支持器官を持つために,幹や枝の河川沿いにおける適応様式は非常に興味深い問題である.そこで本研究では,渓流沿い植物キシツツジと,対照種のモチツツジを用いて,それぞれの枝に対する力学的解析を行い,木本性渓流沿い植物の枝における適応様式を明らかにすることを目的として研究を行った.力学的解析の結果,曲げ弾性率はキシツツジが有意に低いことが示され,柔軟性を獲得していることが明らかとなった.また解剖学的解析の結果より,キシツツジは有意に細胞壁割合が低く,さらに道管数が有意に多いことが示された.これらのことからキシツツジの枝は少ない細胞壁量と多くの道管数により総細胞壁量が減少し,そのことが枝を変形しやすくすることに寄与していると考えられ,水流ストレスを低減させていることが考えられる.

アカバナ科マツヨイグサ属の機械的ストレスに対する適応戦略
演者:黒須愁治,柴政幸,原田栞里,伊澤颯翔,黒滝魁斗,原駿輔,矢島衣織,福田達哉
要旨:外来植物の多様な環境への進出を可能にさせる背景には,環境ストレスに対する耐性や軽減に関与する形質の保持が考えられる.アカバナ科マツヨイグサ属は日本各地に帰化しており,このうちメマツヨイグサは直立茎,コマツヨイグサは匍匐茎という異なる成長様式を示し,さらにこれらには両種間には雑種の報告もある.そこで本研究では,両種の茎の違いが及ぼす力学的特性への影響と,それを可能にする解剖学的背景を明らかにし,外来植物の国内における適応戦略を考察することを目的とした. 力学的解析では,3点曲げ試験によって曲げ弾性率を,ねじれ振り子試験ではせん断弾性率を測定し,ねじり曲げ比を算出した.解剖学的解析では,茎の絶乾重量と体積から単位体積あたりの細胞壁量を,茎の切片から単位面積あたりの細胞壁割合および細胞数を算出した.その結果,メマツヨイグサは曲げ弾性率が有意に高く,コマツヨイグサはねじり曲げ比が有意に低く,曲げ変形しやすいことが示された.また,メマツヨイグサは細胞壁を厚くし茎を肥厚させて草丈を高め,コマツヨイグサは薄い細胞壁と大きな細胞によって茎を変形しやすくする特性を持つことが明らかとなった.これらの結果から,風の弱い内陸部では草丈の高いメマツヨイグサが競争的に優位となり,強風の海岸前線では,風ストレスを軽減させる茎を持つコマツヨイグサが侵入するという両種の戦略が示唆された.

河川湾曲部に生育するオオバヤシャゼンマイの機能形態学的研究
演者:原駿輔,柴政幸,福田達哉
要旨:河川の湾曲部において浸食作用を受ける外側を外岸,寄州側を内岸とすると,大雨などの急激な洪水時,内岸と外岸で水流差が生じ,河川沿いに生育する植物は異なる水流ストレスを受けることが想定される.オオバヤシャゼンマイは陸上種のゼンマイと渓流種のヤシャゼンマイの交雑種であり,そのために様々な水流ストレスに適応することが示唆されている.本研究では同所的に生育する河川沿いのオオバヤシャゼンマイの内岸集団と外岸集団の比較によって異なる水流ストレス下での適応様式を明らかにする.形態学的解析の結果,内岸および外岸に生育するオオバヤシャゼンマイの個体群は形態的に両親種の中間的な値を示した.しかし葉柄の解剖学的および力学的解析の結果,中間的な値を示さなかった.また,単位体積あたりの細胞壁量において,内岸集団は外岸集団より有意に高く,さらに解剖学的解析の結果,厚壁組織の細胞壁密度において内岸集団は親種や外岸集団より有意に高いことが示された.細胞壁は力学的に植物体の支持を担うため,内岸集団は単位体積あたりの細胞壁量を多くすることで葉柄の強度を高めていた.また,外岸集団は厚壁細胞の細胞壁を薄くすることで葉柄の柔軟性を獲得し,水流ストレスの回避に繋がっていると考えられる.本研究の結果は,オオバヤシャゼンマイが形態学的解析だけでは判断できない解剖学的および力学的変化を用いて異なる水流ストレスに適応することを示唆した.

ツリガネニンジンの狭葉化は遺伝的固定なのか?
演者:矢島衣織,柴政幸,福田達哉
要旨:植物は様々な環境に対して形態を変化させることにより生育を可能にしていると考えられる.キキョウ科植物のツリガネニンジンの葉は,多様な形態を示し,そのことが様々な環境へ侵入・定着を可能にしていることが報告されており,河川沿いに生育する渓流集団は増水時の水流ストレスを回避するために狭葉化を獲得して生育していることが報告されている.しかし,この狭葉化が表現型可塑性による順応なのか,それとも遺伝的固定による適応なのかといった疑問が生じる.また,ツリガネニンジンは一年目に根出葉を形成するが,この葉に関しての狭葉化の有無は不明のままである.そこで本研究ではこれらの問題に対して,対照集団を含めた栽培実験により,ツリガネニンジンの形態に関する遺伝的変化の有無を明らかにすることを目的として実験を行った.その結果,両葉とも渓流集団の葉形指数が対照集団よりも有意に大きく,狭葉化の遺伝的固定が示された.また,渓流集団の茎および根出葉の葉柄が対照集団と比べて太く,かつ短くなっていることが示された.これらの結果は,ツリガネニンジンの渓流集団が草丈を制限し,太い基部で曲がりにくくなるように変化していることを示しているため,水流ストレスに対して耐性を示唆する形態を遺伝的に保有していることが示された.

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