本専攻の柴政幸君(生物多様性研:日本学術振興会特別研究員PD)による渓流沿い植物ヤシャゼンマイは栄養葉の葉柄だけではなく胞子葉の葉柄も柔軟性に富むことを示した論文がScientific Reportsに掲載されました。
概要
大雨や台風といった豪雨による突発的な増水は、河川沿いに生育する植物にとってのストレスとなり、そのストレスを低減させる狭葉化した植物がそのような場所を占めることがある。このような植物は渓流沿い植物と呼ばれ、これまでシダ植物のヤシャゼンマイの栄養葉が春から秋までの長期間地上に展開しているために、水流ストレスによる折損のリスクが高いことから、狭葉化の他に葉柄の柔軟性を獲得することにより水流ストレスを低減させていることが示されていた。本研究では新たに地上部展開時期が春期の1ヶ月弱であるために、栄養葉のような水流ストレスによる折損リスクが低いと考えられる胞子葉の葉柄に着目し、機械学的および解剖学的解析を行った。機械学的解析の結果、ヤシャゼンマイの胞子葉の葉柄は、近縁種でありヤシャゼンマイよりも内陸に生育するゼンマイよりも柔軟な葉柄を持つことが明らかとなった。また比較解剖学的解析の結果から、ヤシャゼンマイの栄養葉とは異なるメカニズムにより類似した柔軟性を示すことが明らかとなった。ヤシャゼンマイの場合、栄養葉は損壊しても新しい栄養葉を形成することができるものの、胞子葉は、胞子散布までの成長の間に損壊が起こってしまった場合、翌年の胞子葉形成まで待たなくてはならず、今年度の繁殖に大きな影響を与えることが考えられる。そのために、ヤシャゼンマイの胞子葉は柔軟な葉柄を形成することにより、春期の非常に短い地上部展開期に予想だにしない河川の増水があっても確実に胞子散布までつなげていく適応戦略を有することが示された。
尚、本研究は科学研究費助成事業基盤研究(C)および特別研究員奨励費の支援の下、実施されました。
Masayuki Shiba , Tatsuya Fukuda (2025) Mechanical flexibility of fertile frond stipes in the rheophytic fern Osmunda lancea. Scientific Reports 15: 29664.
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-025-15715-0