本専攻の原田栞里さん(生物多様性研:博士課程1年)による、葉で光合成をすることをやめ、菌類から炭素源を獲得するように進化した「光合成をやめた植物」として知られるギンリョウソウが、不要とも思われる葉を欠失させずに維持している背景に、花の形成が関与することを明らかにした論文がPlant-Environment Interactionsに掲載されました。
概要
植物は葉において光合成を行うことで自身の栄養となる炭素源を獲得していますが、植物の中にはその炭素源を他の生物からもらうことで光合成をやめた植物が知られています。そのうちツツジ科のギンリョウソウは、菌類と共生した菌根を形成して菌類から栄養を得ており、その菌類も他方では樹木と菌根を形成して共生しているので、菌類を仲介にして間接的に樹木から栄養を得ています。ギンリョウソウは菌類から栄養をもらうことで光合成をやめたにもかかわらず葉を鱗片葉として維持しており、その総重量は地上部全体の約17%の重量にもなるため、無視できる重量ではありません。なぜギンリョウソウは菌類から得た資源を、光合成をしない鱗片葉の形成に投資するのか不明でした。
本研究の各器官の計測結果は、花の各器官と鱗片葉の大きさの相関が示されました。そこで、なぜ鱗片葉と花器官の大きさが相関したのか疑問となります。一般的に花の各器官は葉が変形することでできた器官であり、花の各器官を作る基として葉が必要であることが知られています。光合成をやめたギンリョウソウですが、花を作ることまではやめておらず、またその花にはマルハナバチ類などが送粉や受粉に来ることが知られているために、これらの昆虫を呼ぶためには、ある程度の大きさの花が必要になります。本研究の結果は、ギンリョウソウが光合成をやめたから鱗片葉のサイズを0に近づけてしまうと、花の各器官のサイズも0に近づくことを示しており、受粉のための昆虫を呼ぶために必要な花のサイズをギンリョウソウが実現するためには、ある程度の大きさの鱗片葉を形成する必要があったことを示しています。そのため、光合成をしないため一見不要に見えるギンリョウソウの鱗片葉も、花を作るためには、なくてはならない器官であることが明らかになりました。
尚、本研究は科学研究費助成事業基盤研究(C)、特別研究員奨励費および笹川科学研究助成の支援の下、実施されました。
Shiori HARADA, Masayuki SHIBA, Syuji KUROSU, Hayato IZAWA, Kaito KUROTAKI, Takato YASUDA, Tatsuya FUKUDA
Why Does Non-Photosynthetic Monotropastrum humile (Ericaceae) Have Scale Leaves?
Plant-Environment Interactions 4: 70060
DOI: https://doi.org/10.1002/pei3.70060