生物多様性研究室の柴政幸君 (博士課程3年、日本学術振興会特別研究員) が、第24回日本植物分類学会(高知大学)にて発表しました。
渓流沿い植物ヤシャゼンマイの栄養葉および胞子葉の葉柄における比較力学的研究
演者:柴政幸(生物多様性研:博士課程3年、日本学術振興会特別研究員)、福田達哉
要旨: 河川沿いに生育する植物は、突発的な洪水による水流ストレスを低減させるための狭葉化に加え、新たに葉柄などの支持器官も柔軟性を獲得していることが報告された。しかし、この報告は栄養葉の結果であり、二形性を示すヤシャゼンマイの胞子葉の葉柄に関しては不明である。ヤシャゼンマイの胞子葉の地上展開期間は非常に短いために、栄養葉と相同のメカニズムで河川沿いに適応しているのか疑問が生じる。そこで本研究では、ヤシャゼンマイの胞子葉の葉柄の適応様式を栄養葉との比較から明らかにすることを目的として研究を行った。力学的解析の結果、ゼンマイに比べてヤシャゼンマイの胞子葉の葉柄は、破断に至るまで大きく変形する柔軟性を有し、この背景には、厚壁組織の伸長方向への細胞の短小化が、応力の集中する単位長さあたりの細胞間数の増加に関与し、葉柄の受けた垂直な荷重に対する積算細胞可動距離の増加が、葉柄全体の変位が大きくなる栄養葉と類似したメカニズムが示唆された。しかし、栄養葉と胞子葉の比較は、細胞長や細胞壁密度に有意差を認めたものの、両葉間における柔軟性に有意差は認められなかった。栄養葉の葉柄は展葉直後から高い細胞壁密度で葉身を支持する一方、同時期に展葉する胞子葉は低い細胞壁密度で早期に胞子散布を行い枯死するために、胞子葉は栄養葉と比べ脆弱な細胞壁を形成し、細胞自身の変形を容易にすることで、栄養葉の葉柄と同程度の変位になったことが示唆された。