メニュー 閉じる

生物多様性研の学生が第69回日本菌学会で発表しました

生物多様性研究室の原田栞里さん(博士課程1年) が、第69回日本菌学会(千葉大学)にて発表しました。

蛇紋岩地に発生したアンモニア菌2種の形態的適応様式の解明

演者:原田栞里(生物多様性研:博士課程1年)・深山寛人・柴政幸(生物多様性研:日本学術振興会特別研究員)・鈴木彰・福田達哉

要旨:アンモニア菌は土壌への尿素施与後にpHやアンモニア態窒素濃度が高い時期から発生する化学生態菌群であり,これまでは主に酸性土壌において尿素施与後の発生に関する研究が行われてきた.これに対して,蛇紋岩地は塩基性であり, 保水性が低い特性があるために,一般的な植物の生育が阻害され, 特徴的な植生となることが知られているものの,アンモニア菌に関する研究は少ない.本研究では,千葉県と静岡県の蛇紋岩地と非蛇紋岩地(対照地)にそれぞれ調査区を設け,800 g/m2の尿素を施与した調査区(施与区)と尿素施与を実施しなかった非施与区(対照区)を設け,同施与区に発生したアンモニア菌の担子菌において子実体の形態比較を行った.同施与区に発生した担子菌の内,千葉県の施与区ではアシナガヌメリ(Hebeloma danicum),静岡県の施与区ではイバリシメジ(Sagaranella tylicolor) が多く発生したことから,この2菌種に着目して子実体の形態学的比較を行った.本研究の解析の結果,蛇紋岩地に発生したこの2菌種の子実体は, 非蛇紋岩地のものと比較して,傘の直径と柄の長さが有意に小さく短くなるという形態変化を示した.イバリシメジは傘の直径と柄の長さに相関が見られた一方,アシナガヌメリは,蛇紋岩地でのみ傘の直径と柄の長さに相関がみられた.子実体サイズの小さいイバリシメジは,傘と柄の高さを合わせた全長がLF層の厚さと似た値を示したことから,LF層の厚さが,子実体サイズに関与することが推察された.また, 子実体サイズの大きいアシナガヌメリは, 資源の乏しい蛇紋岩地では子実体サイズが小さくなるために,傘と柄のサイズがLF層の厚さを反映したと考えられ,資源が豊富な非蛇紋岩地では,一定のサイズに成長可能であったために傘と柄の成長に相関を示さなかったと考えられる.遷移前期に発生する腐生性のイバリシメジはHA層の浅い位置で増殖するため,蛇紋岩地特有の土壌の影響よりもLF層の厚さの影響を受け,一方, 遷移後期に発生する菌根性のアシナガヌメリは,HA層全体で増殖するためより蛇紋岩地特有の影響を受けたと推察された.

糞生菌トフンヒトヨタケ(Coprinopsis stercorea)における隠蔽種の探索

演者:亀田果夏・福田達哉・吹春俊光・柴政幸(生物多様性研:日本学術振興会特別研究員)・原田栞里(生物多様性研:博士課程1年)・佐藤博俊

要旨:動物の糞からは多様な菌類が発生することが知られており,「糞生菌」と呼ばれている.ヒトヨタ ケ類(担子菌類,ハラタケ目)は糞生菌の主要な菌群であり,日本産既知ヒトヨタケ類48種のうち11 種が糞生の生態を持つことが知られている.演者らは予備調査として,鹿児島県屋久島のニホンザ ルとニホンジカの糞を調べたところ,低地から高地まで植生,排糞した動物種に関わらず,多数のトフンヒトヨタケCoprinopsis stercorea(ナヨタケ科)と思われる子実体を得ることができた.本種はフランスで記載された種で,広く全球的に分布する「汎世界分布種」とされている.しかしハラタケ目菌類のほとんどの種と同様,本種においても分子系統などによる分類学的な調査は行われたことがなかった.そこで今回は本種に焦点を絞り,日本列島産の本種の多様性について調査を行った.北海道から鹿児島県屋久島まで日本各地 14カ所にて糞(ニホンジカ,ニホンザル,ニホンノウサギ,計 221サンプル)を採集し,湿室培養法にて1サンプルにつき60日間培養し,子実体を発生させた.発生した子実体は,必要に応じて分離培養をおこない,乾燥標本を作製した.子実体及び培 養菌株からDNAを抽出し,rDNA-ITS1領域の塩基配列の解読を行い,分子系統推定を行った. その結果,採集したすべての地点からトフンヒトヨタケと思われる菌を分離することができた. そのうちの161標本を用いたITS1領域の系統解析の結果,本種は多系統群であり,2つ,あるいは3つの系統に分かれることが示唆された.一方で,これらの系統間で,顕微鏡的形態の有意な差は見られなかった.この結果から,日本産トフンヒトヨタケは種複合体であり,形態的に識別が困難な 異種が存在していることが示唆された.これら系統は互いに生殖隔離されているのか,日本産トフ ンヒトヨタケは何種にわけるのが適切なのか,いずれが真の Coprinopsis stercorea なのかについて は,さらなる検証が必要である.

PAGE TOP